「エンゲージリングは、あなたが選んでくれた宝石なら何でもいいわ。」 彼女は確かにそう言いました。これはプロポーズなのでしょうか。宝石店で話した結果、後からリングに付ける値段も確認して、私はカット済みのサファイアを買って来ていました。彼女は大勢に巻かれるような人ではありません。一般的なダイヤよりは彼女の誕生石であるサファイアの方がいいと思って、それを買って来たのです。そしてどう言って渡していいか思い悩んだあげくに、彼女がネックレスにしていたダイヤを元に話を切り出したわけです。
「エンゲージリングってダイヤが多いんだってね。」という私の言葉に対して、彼女が気のない返事をするのは予想していました。その後に「ダイヤって好き?」と聞いても「別に」とか「あなたが買ってくれるんなら別かも」とかいう言葉が返って来るのを私は期待していました。そうしたら「君の誕生石なんかどう?」と言って、買って来たサファイアを見せるつもりだったのです。そして「この石でエンゲージリングを作ったら、受け取ってくれる?」と言うつもりでした。
「エンゲージリングは、あなたが選んでくれた宝石なら何でもいいわ。」と言われてしまった私は、いったいどう話を返せばいいのでしょう。思わず声を出せずにいたら、やがて彼女はこう言って来ました。「ヤだ。マジになんないでよ。例えばの話よ。例えば。」 私は何かほっとした感じがするとともに、突然不安になって来ました。この人は自分と結婚してくれるのだろうか。
エンゲージリングを渡そうと思うだいぶ前から見る夢があります。女性が1人で、砂が舞う荒野に座っているのです。まるで誰かを待っているように。その女性の姿形は彼女とは全然違うのですが、なぜかその女性と彼女がだぶって感じられます。その隣町で別な女性と仲良く暮らしている男性がいます。さっきの女性はこの男性を待っている。そしてその男性は自分を表しているというのが何となく分かるのです。
エンゲージリングを渡してはっきりと婚約してしまいたいと思ったのは、この夢のせいもあります。この夢は前世の出来事なのかもしれません。過去に私は彼女を捨てて、他の女性へと走ったのかもしれません。その真偽は確かめようがないし、そんな夢にとらわれるのは不健康だと思いますが、なんとなく、今回こそは幸せにしてあげたいという思いがあるのです。